卵子の質の向上と着床率の向上
卵子の質の向上
卵子は卵巣の中でおよそ6か月(150~180日)かけて原始卵胞から排卵前の成熟卵胞へと育っていきます。 この間の卵子を取りまく環境(栄養状態、生活習慣、年齢など)が卵子の質を決定づけます。
妊娠する過程では、排卵された卵子は受精、そして細胞分裂をしながら およそ5日後に着床します。その後、母体からの血液供給を受けるまでの期間を生きぬくためのエネルギーは その卵子が持つ力だけがすべてになります。
卵子の質が低ければ、たとえ受精したとしてもその後の胚分割が途中で止まってしまったり、細胞分裂時にミスが起こりやすくなり、染色体異常となって 着床しない、着床しても流産してしまう、ということになります。
また、卵子の質は たとえどのように健康的な生活を心がけていても 年齢と共に必ず低下していきます。 加齢による卵子の質の低下によっても 染色体異常が起こりやすくなり、また 顆粒膜細胞の増殖分化に影響を及ぼし、 妊娠に至らないという結果につながります。
これらの様々な環境因子から影響を受ける卵子の質を改善することで、受精率や妊娠率の上昇を目指し、当院では鍼灸施術と最新の低出力レーザーを併用した育卵鍼灸を行っています。
不妊鍼灸を始めるタイミング
では、卵子の質の向上には、いつから どのくらいの期間 鍼灸を続ければよいのでしょう。
先に述べたように、卵子は卵巣内でおよそ6ヵ月かけて成長していきます。その期間内には、卵子が卵巣へ流れる血液から栄養を受け成長する期間と、脳下垂体から出るFSH(卵胞刺激ホルモン)の刺激により成長する、2つの期間にわかれます。
まず、卵子を包む卵胞は卵巣への血液による栄養供給によって活性化し 顆粒膜細胞が卵を覆うようにその層を厚くしていきます。
多層化した顆粒膜細胞はFSH(卵胞刺激ホルモン)に対する感受性を獲得した後は、FSHによる刺激でさらに増殖していきます。
やがて卵胞の内側を覆う壁顆粒膜細胞と 卵子の外側を覆う卵丘細胞へ分化していきます。
ここで分化した2つの細胞はその働きがまったく違います。
壁顆粒膜細胞は テストステロンをエストロゲン(E₂)に変換し、子宮内膜を厚くし頸管粘液の分泌を高めます。排卵前になると黄体化ホルモン(LH)を受容する細胞へと変化し、排卵後は妊娠維持のためプロゲステロン(P₄)を分泌する黄体へと分化していきます。
一方の卵丘細胞は 卵子との間にギャップジャンクションと呼ばれる細胞間結合をつくり それを通して血液から栄養を卵子へ送る働きをし、卵子の細胞分裂を制御する役割を持ちます。
このように、卵子は 顆粒膜細胞の形成前は卵巣に流れ込む血液からの栄養により成長し、卵子の周りに顆粒膜細胞が形成された後には 脳下垂体から放出され、血管を通って卵巣に到達する 卵胞刺激ホルモン(FSH)によって成長します。この2つの発育条件を考えると、卵巣への血流をより良くすることが、卵子の質を高めることにつながると考えられます。
約半年前から 適切な間隔で、卵巣への血流促進のための鍼灸施術を行うことで、卵子の質の向上を目指します。施術開始からおよそ3~4ヵ月経過する頃から、タイミングを含め、採卵、受精、培養、移植の結果に変化が現れる傾向にあります。
採卵から移植に関してご不安のある方は ぜひ一度ご相談ください。

着床率の向上
妊娠に至らない原因には、先に記した胚に原因がある場合、子宮の状態に原因がある場合、またその両方に原因がある場合、そして 免疫機能の異常などが考えられます。
胚に原因がある場合については 前項の 『卵子の質を向上させる』 に記してあります。
補足として、体外受精の場合、胚盤胞まで培養できていれば その胚の染色体の数の異常を調べるPGT-A(着床前胚染色体異数性検査)という検査を受けることができます。この検査をクリアすると その妊娠率は約70%ほどになるという報告があります。
年齢と共に染色体異常の割合は上昇していきます。 また、グレードの良い胚であっても染色体異常であるケースもあります。
ですので、このPGT-A検査は体外受精での妊娠率をより高めるためにも、また 母体への負担を考える上でも、意味をもつ検査だと言えます。
子宮に原因がある場合には 以下のようなケースが考えられます。
・子宮の形態異常によるもの
中隔子宮、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ、などにより着床不全を起こしている。 帝王切開を経験された方はその瘢痕が原因となる場合もあります。
・子宮内の細菌やウィルス感染による着床不全、慢性子宮内膜炎による着床不全
いずれも子宮鏡検査、組織検査により判明し、その後 服薬や手術などにより治療が行われます。
・〝着床の窓“と呼ばれる 子宮が胚を受け入れるタイミングに時間的ズレがあることによる着床不全
これに対応する検査としてはERA検査やER Peak検査などがあります。最近では100時間以上ずれていたという報告もありました。
・子宮内の細菌叢のバランスが崩れることによる着床不全
子宮内の乳酸菌(ラクトパチルス菌)の割合が少なくなると 着床や妊娠の阻害要因となることがわかっています。 これについてはEMMA検査(子宮内膜マイクロバイオーム検査)で調べることができ、リスクがある場合には 乳酸菌(ラクトパチルス菌)を補う治療が行われます。
その他の原因となるものに免疫機能の異常があります。
代表的なものとして抗リン脂質抗体症候群があります。
からだの中に抗リン脂質抗体という自己抗体が作られることで血液が固まりやすくなります。 血栓などが出来やすくなることで習慣性の流産を引き起こすことがあります。 これに対する治療法はなく、血栓が出来なくなるような対処療法が行われています。
免疫とは体にとっての異物を排除するための機能ですが、その機能が誤作動を起こし、胚や胎児が異物とみなされ攻撃を受けることで着床不全が起こります。
免疫機能を担うT細胞、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)は腫瘍壊死因子と呼ばれ細胞障害性(細胞を攻撃する力)が非常に強いサイトカイン(細胞から分泌されるタンパク質)を産生します。これはTh1と分類されます。
反対にヘルパーT細胞が主に産生し 炎症反応を抑える抑制性サイトカインには、IL-4、IL-10がありTh2と分類されます。
子宮内ではTh2が優位な方が妊娠にとっては良い状態です。このTh1/Th2の優位性を調べる検査もあり、Th1が高い場合には免疫抑制剤を使った治療も行われています。
もう一つ、先ほどのTh1に分類されたNK細胞(ナチュラルキラー細胞)は、末梢血中ではCD56dimが主成分であり細胞を排除する方向に働くのですが、子宮内ではCD56brightに変化し、名称も子宮NK細胞と変わり、働きの全く違う細胞になります。 子宮NK細胞は妊娠の継続に重要な子宮内膜基底層にあるらせん動脈を作るために必要なサイトカインを分泌し、胎盤と胎児への栄養供給に重要な働きをしています。
子宮内では 免疫抑制性に働く子宮NK細胞は 子宮内から出ていくとその働きを変えてしまうことがわかっています。 子宮内の環境の何らかの因子が子宮NK細胞の増加に働いていると考えられます。
以上のような点を考慮し、当院ではタイミングや人工受精後、体外受精の胚移植後には着床のための鍼灸施術を行っています。
これまで全く陽性反応が診られなかった方や 子宮内膜が薄いことで移植を延期せざるを得なかった方なども、着床のための鍼灸施術続けられることで、結果が好転する、といった症例も見られます。
それぞれの方の 排卵時期、胚移植のタイミングに合わせて最適な施術日を提案させていただきながら、子宮環境の改善と、早期の妊娠を目指します。
着床の段階でお困りの方もどうぞご相談にいらして下さい。